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社宅から出た後の住まいはどうすればいい? 後悔しない老後の住まい選び

住まいのこれから

退職後の住まいは社宅を出る間際に考えるのではなく、社宅に住んでいるうちから将来の住まいをイメージし、資金計画を立てていくことが大切です。

【執筆者】矢口ミカ

会社員にとって家賃の負担が軽くなる「社宅制度」は、経済的なメリットを与えてくれる福利厚生の一環です。一般的に新規に賃貸契約を結ぶ際に必要となる敷金、礼金などの初期費用がかかることはなく、保証人を求められることもありません。

このようにたくさんのメリットが得られる社宅制度ですが、退職後は当然ながら退去しなくてはなりません。

今回は、社宅から出た後も安心して生活ができるように、老後の住まいについて考えてみましょう。

社宅制度とは

まずは、社宅制度について簡単に説明します。

1.企業が従業員の生活のために住宅を貸与すること

社宅とは企業が従業員のために、アパートやマンションなどの集合住宅や戸建て住宅を提供する制度です。主に企業の物件である「社有社宅」と、企業が賃貸物件を会社名義で契約する「借り上げ社宅」の二つに分類されます。
個人でマンションや住宅を借りるよりも、家賃が低いのが特徴です。

2.目的は福利厚生の充実

企業が社宅制度を導入する目的は、福利厚生の充実による社員の定着です。従業員が自ら部屋を探して借りる手間が省けるだけでなく、安い賃料で住めるため、人材採用の際には、他社との差別化が図れます。住居費は毎月の支払いのなかでも大きな割合を占めるため、社員にとっては大きな経済的メリットです。また、転勤にともなう転居にも労力を使わずに済むことや、海外赴任の際には治安の良い環境で社員が暮らせることも利点として挙げられます。

3.社宅制度以外の住宅に関する福利厚生

家賃の補助を目的に、給与に上乗せする形で従業員に直接手当を支給する「住宅手当」も会社の制度としてよく導入されています。社宅と違い、社員が好きな地域で自由に住宅を選べるのがメリットです。この場合、不動産会社との賃貸契約や家賃の支払いなどは、賃貸契約者である社員が自分で行わなければなりません。
また、住宅手当は課税対象に該当するため、給与から所得税などが差し引かれます。社会保険料なども住宅手当を含んだ金額で算出されるので、社会保険料も負担が増してしまうのがデメリットです。

社宅の家賃相場

社宅と聞くと、民間の賃貸住宅に住むよりも家賃がかからない、というイメージがありますが、実際はどうなのでしょう。総務省が2018年に発表した「平成30年住宅・土地統計調査」を参考に見てみます。
こちらの資料によると、「民間の借家(木造)」の1カ月あたりの家賃5万2,062円に対し、「給与住宅」の家賃は3万4,049円と、6~7割程度であることが分かります。勤め先が家賃の一部を負担してくれることによって本来かかるはずのお金を貯金や別の支出に回せる点は、とてもありがたいですよね。

▼住宅の種類別1カ月あたりの家賃(2018年)

住宅の種類

1カ月あたりの家賃

給与住宅

3万4,049円

民営借家(木造)

5万2,062円

民営借家(非木造)

6万4,041円

都市再生機構(UR)・公社の借家

6万9,897円

総務省「平成30年住宅・土地統計調査|表6-2 住宅の種類,住宅の所有関係別1か月当たり家賃・間代及び1畳当たり家賃・間代―全国(2013年,2018年)」より一部抜粋

住宅を購入した場合のメリット

社宅は安い賃料で住めるため、経済的に大きな恩恵を受けられるものですが、退職後は退去しなければなりません。そのため、現役で稼ぎのあるいまのうちから退職後の住まいについて考えている人も多いことでしょうか。

ここでは、まず「住まいを購入した場合」のメリットを解説します。

1.住宅ローンが終わったら住居費が少なく済む

住宅ローンを払い終わった後は、定期的な支払いがなくなるため、家計がグッと楽になります。賃貸住宅のように住み続ける限り、毎月まとまった金額が必要ということがないため、老後の大きな安心となるでしょう。

2.自分の資産になる

住宅ローンは何千万円と非常に高額なため、支払うのに大変な労力が必要ですが、住宅ローンを完済した後は住居費が少なくなり自分の資産にもなります。

3.万が一の際には、団体信用生命保険金で一括返済できる

ローン契約者が死亡するなど万が一の場合であっても団体信用生命保険に加入していれば、返済割合等にかかわらず残りの住宅ローンが全額弁済されるため、残された家族にとって、安心材料になります。

4.リフォームできる

自分の所有物のため、好きなようにリフォームできます。

住宅を購入した場合のデメリット

住宅購入のデメリットは、ほぼお金に関することといえます。

1.住宅の購入資金が高い

国土交通省が令和元年度に実施した「住宅市場動向調査報告書」によると、土地付き注文住宅の新築資金は平均4,615万円となっています。(※1) なお、住宅ローンがある世帯の年間返済額は、「分譲マンション」の取得世帯が最も高く131.6万円。「注文住宅」「分譲戸建住宅」「中古戸建住宅」の取得世帯でも100万円を超えています。

国土交通省「令和元年度 住宅市場動向調査報告書|2.4.2住宅ローン(4)年間返済額」からの転載

2.返済期間が長い

住宅資金は非常に高額なぶん、返済期間も長くなります。上記と同じ資料によると、「注文住宅」「分譲戸建住宅」「分譲マンション」取得世帯では30年以上、「中古戸建住宅」「中古マンション」の取得世帯でも28年以上かかることになります。

国土交通省「令和元年度 住宅市動向調査報告書|2.4.2住宅ローン(3)返済期」からの転載

返済期間を長く設定すると、収入のなくなる定年後にまでローンを返済する必要が生じます。ライフプランと合わせて考えることが大切になります。

3.修繕費や税金などランニングコストがかかる

自分で家を所有するとなると、リフォームや修繕費も自分で負担する必要があります。また、固定資産税や都市計画税などの税金を納めることも必須です。なお、分譲マンションの場合は管理費や修繕積立金を、毎月ねん出することになります。火災保険料や地震保険料などの支払いも定期的に発生することになるでしょう。

4.「負動産」になるリスクがある

持ち家のメリットは子どもに資産として残せることです。しかし、子どもが遠方に自宅を購入するなどしてその家には住まず、借り手や買い手が見つからない場合は「負動産」となり、子どもに負担をかけてしまうリスクがあります。こうなってしまうと所有しているだけで固定資産税などのランニングコストがかかり、管理もできないため不動産が劣化する恐れが出てきます。
この「負動産」は、近年の核家族化した社会では深刻な問題になりつつあります。

賃貸に住む場合のメリット

社宅の次の住まいも賃貸を選んだ場合の生活はどうなるのでしょう。まずは、メリットから見ていきましょう。

1.住む場所を自由に変えられる

賃貸住まいはライフスタイルに合わせて、身軽に住む場所を変えられます。世帯人数に合わせて、広い(または狭い)賃貸に住み替えたり、足腰に不安が出てきた場合には1階の部屋に住み替えたりができます。

2.修繕費や税金などの支出がない

修繕費や税金などは所有者であるオーナーが支払うため、定期的にまとまった金額の支出を必要としない点もメリットです。

3.多額の住宅ローンを背負う必要がない

住宅ローンを背負う必要がないため、負債を抱えずに済むことも生活を送るうえでの安心材料と言えます。

賃貸に住む場合のデメリット

賃貸住まいは大きな負担こそありませんが、いくつかのデメリットがあります。

1.家賃の支払いが毎月発生する

賃貸住まいの最大のデメリットは、住んでいる限り家賃が一生涯、発生することです。退職後は一般的に収入が低くなりますが、家賃は一定のままなので住み続けている限り、ずっと家賃を支払わなければなりません。
老後資金を多めに準備したり、なるべく長く働き続けたりして、家賃をねん出する必要があります。

2.高齢になると入居審査が通りにくい

年齢が高くなるにつれて、賃貸物件の入居審査は厳しくなります。その理由は、オーナーが借り主の家賃の支払能力や死亡事故の発生に対し、不安を感じてしまうからです。
高齢であることを理由に更新契約を断られる、希望する物件に入居できないなどのリスクは年々高まります。

3.自由にリフォームできない

自分が所有するわけではありませんから、自分好みにカスタマイズすることは難しいといえます。設備が劣化した場合であっても基本的にオーナーの許可を要すことに加え、オーナーの判断や都合によっては修繕できないことも考えられます。

4.資産として残らない

賃貸物件の場合は、どんなに長く住み続けていても自分の資産にはなりません。

老後の住まいで後悔しないためのポイント

若いときは、失敗したとしてもやり直しがきくものですが、老後になって住まい選びに失敗すると大変悲惨なことになってしまいます。ここでは、老後の住まいで後悔しないためのポイントをご紹介していきましょう。

1.「賃貸・購入」「戸建て・マンション」のメリット・デメリットを把握する

自分に合った住宅を選ぶためには「賃貸・購入」「戸建て・マンション」のメリット・デメリットを、それぞれ把握しておくことが重要です。
賃貸では、仕事の都合などライフスタイルの変化で自由に住み替えができますが、借りている限り永遠に家賃を支払わなければなりません。一方、購入の場合は住宅ローンを支払っているあいだは苦労もあるかもしれませんが、完済後のお金の心配はさほどありません。そして、戸建てにもマンションにも、それぞれメリット・デメリットがあります。
自分にとって、最も適切な住まいとは何かを考えて選ぶようにしましょう。

2.老後の収入で返済または家賃の支払いができるのかを確認

住宅を遅めに購入して、ローンの返済が老後になってしまう場合は注意が必要です。また、繰り返しになりますが賃貸の場合は家賃の支払いが生涯続きます。
『人生100年時代』といわれる現代は、平均寿命が伸びて老後の生活が長くなったため、ある程度困らないだけの資金がないと生活が成り立ちません。

最新の「家計調査」(総務省発表)によると、高齢夫婦の無職世帯では、1カ月の実収入25万6,660円に対し、支出額は25万5,550円と試算されています。その差額はプラス1,111円。いまの高齢の夫婦は、毎月の収支のバランスを保った状態で暮らしている、ということになります。しかし、このうち「住居」にかかる支出額は1万4,585円ほど。つまり、この試算は家賃やローンの支払いのない夫婦が前提です。リタイヤ後も家賃やローンを払い続ける場合は、数万円単位でプラスアルファのお金が必要になると言えるでしょう。

なお、現役世代(二人以上の世帯)の実収入は60万9,535円、支出は41万6,707円となっています。(※2) 社宅にお住まいの場合は、支出額が2~3万円程度少ないかもしれません。こうした差額を貯蓄に回すなどし、いまのうちから老後に備えておきたいところです。

▼高齢夫婦無職世帯の一カ月の収支(2020年)

総務省「家計調査報告-2021年(令和3年)2月分-|<参考4> 65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯) 図1 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 -2020年-」からの転載

3.購入時期は「子どもの独立後」が好ましいタイミング

購入のベストなタイミングのひとつが、「子どもの独立後」です。就職などで子どもが巣立ち、夫婦だけになれば、それほど広い住まいは不要です。購入予算を大きく下げられるぶん住宅資金を抑えることができます。

4.購入する場合は現役時代に住宅資金を確保

長期にわたって社宅を利用する人は、現役のうちに住宅資金を確保することをおすすめします。退職した後もローンの返済が残らないように、購入物件の予算は低く抑えることが重要です。なるべく頭金を多めに入れる、もしくは全額支払うなどして老後に負担をかけないようにしましょう。中古住宅は新築よりもお得に住宅を取得できます。

まとめ

今回は現在、社宅にお住まいの方が退職後の住まいを選ぶ際のポイントについて詳しく解説しました。

社宅は会社が社員のために用意してくれた住まいですが、退職後には出ていくというルールがあります。

社宅から出た後に賃貸にするのか、それとも住宅を購入して終の棲家とするのかは、それぞれのライフスタイルによって選ぶべきものであり、どちらが良いとは一概には言えません。しかし、どちらの場合でも先立つものはお金です。

退職後の住まいは社宅を出る間際に考えるのではなく、社宅に住んでいるうちから将来の住まいをイメージし、資金計画を立てていくことが大切です。

※1 国土交通省「令和元年度 住宅市動向調査報告書 P26 2.4.1 購入資金、リフォーム資金 (1)購入資金、リフォーム資金」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001348001.pdf

※2 総務省「家計調査報告-2021年(令和3年)2月分-|図Ⅰ-2-8 二人以上の世帯のうち勤労者世帯の家計収支 -2020年-」
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2020.pdf

執筆者

矢口ミカ

フリーランスの不動産ライター・宅地建物取引士

複数のメディアで執筆中です。宅建の資格を活かし、家族が所有する投資用不動産の入居者管理もしています。住まいに関する資格である整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級も取得済みです。趣味は整理収納と料理。