今、もし大地震が発生したら、あなたはどうしますか?

住まいのこれから

災害はいつでも、どこでも起きると覚悟して、日ごろから備えることと訓練が大切です。普段から地震の小さな揺れを感じたり、緊急地震速報が鳴ったら、直ちに玄関などの安全ゾーンに退避しドアを開けて避難路を確保する癖をつけておきましょう。

【監修】山村武彦(やまむら・たけひこ)

地震列島といわれる日本。2011年の東日本大震災以降だけでも、2014年長野県北部地震(最大震度6強)、2016年熊本地震(最大震度7)、2018年大阪府北部地震(震度6弱)、北海道胆振東部地震(最大震度7)などで大きな被害が出ています。
南海トラフ巨大地震、首都直下型地震などが起きる可能性が高まっているといわれる中、私たちはいつ、だれがどこで被災者になってもおかしくはありません。
その時、いったいどうしたらよいのでしょう。
防災システム研究所 所長の山村武彦さんに伺いました。

地震が来たらまず何をするべきか

Q. 緊急地震速報が鳴りました。その時あなたはどうしますか?
  1. 机の下にもぐる
  2. ガス台の火を止める
  3. 玄関の扉を開く
  4. トイレに隠れる
  5. じっとして様子をうかがう
A. 正解は「3.玄関の扉を開く」です。

50年以上、地震の現場を見てきましたが、玄関だけ残った家をずいぶん見てきました。
玄関は狭い場所に対して太い柱の本数が多く、比較的頑丈にできていますし、いざというときに外部に脱出できる場所です。
そして玄関には靴があります。靴を履けばガラスなどが飛び散った上を歩かなければいけなくなっても安心です。 地震が来たらまず「玄関の扉を開けられるようにする」ことでいざという時に脱出できます。
扉の内側にあるドアストッパーやU字型のドアガードなどで扉が閉まらないようにし、落ち着いて靴を履きましょう。

もちろん、「机の下にもぐる」も間違いではありません。いきなり大きな揺れになった時など、逃げる時間がない時や身体が不自由であれば、近くの頑丈な机の下にもぐっていいのです。ただ、机の下にもぐっているうちに玄関ドアが変形し閉じ込められる可能性があります。その時に火災が発生したりガス漏れが発生したりすると、逃げられなくなってしまいます。緊急地震速報や小さな揺れを感じたら、できるだけ避難路を確保することをおすすめします。

昔はトイレが安全とも言われましたが、最近は建物の構造が変わりました。気密性が高く、出入り口が1か所あるだけなので閉じ込められてしまう可能性があります。
机の下にもぐっても、上の階が崩れ落ちてきたらつぶれてしまうこともあります。

コンロの火を消すのも間違いではありませんが、今は自動的に揺れを感知して火を消す自動消火装置を備えている機器も多くあります。火の近くにいたらまず火を消すべきですが、火から離れていたら、まずは身の安全を図り脱出経路を確保してから落ち着いて火を止めるとよいでしょう。

いる場所による正しい避難方法

「地震が来たら玄関へ行って避難路確保」は基本ですが、自宅がどんな場所にあるのか、自宅のどこにいるかによって状況は異なります。

ベランダにいるときに地震がきたら...

ベランダが損壊したり、ガラスが飛散したり、落下物の恐れもあるので危険です。
すぐさま安全ゾーンに退避しましょう。
"安全ゾーン"とは家具などの転倒や落下物の少ない、ガラスから離れた閉じ込められない場所の事です。一般的には玄関ですが、そういった場所を玄関以外にもつくっておくことが大切です。

一軒家の2階にいるときに地震が来たら...

階段で転倒するなどの危険があるので、慌てて1階に下りるのは避け、2階の安全な場所にとどまりましょう。倒壊したときは1階よりも2階のほうが、隙間ができやすいからです。

古い木造家屋の1階にいたら

古い木造家屋の1階にいたら、倒壊の危険性があるので、できるだけ早く屋外に脱出しましょう。2階にいたら、慌てて1階に降りずに2階の安全な場所で揺れが収まるのを待ちましょう。

高層マンションの場合

木造家屋に比べ倒壊する危険性は少ないですが、ドアが開かなくなる可能性があります。だからまず玄関のドアを開けることは同じです。注意したいのは自宅やそのほかの部屋からのガス漏れや火災です。
玄関で外の様子を伺い、もし火災やガス漏れが発生しているようだったら、揺れが収まってから余震に注意しながら脱出し、エレベータは使わず階段で避難しましょう。

適切な行動をするために"凍り付き症候群"からの脱却を

こういった一連の流れを、緊急時に滞りなく動ける人と、そうでない人がいます。
その違いは何でしょうか。

突然、災害が起こった時、体が凍り付いたように動けないことがあります。これを「凍り付き症候群」といいます。
1995年の阪神淡路大震災で、震源に近く倒壊したコンビニエンスストアにこんな映像が残っています。店員が客にお釣りを渡そうとしたところ、二人とも動きが止まり、じっとドアのほうを見つめて動きません。小さな揺れがカタカタと音を立ててドアを揺らしていることに気づき、そこを凝視しているようなのです。その後、ほどなくして映像は途切れてしまいます。

何か起きていることがわかっているのに、とっさに動けない、これが「凍り付き症候群」です。
小さな揺れがきたとき、直ちに安全な場所に退避できれば倒壊に巻き込まれることはなかったかもしれません。最初の揺れで自分の中の"緊急スイッチ"を入れられるかどうか、動けるか動けないかが生死を分ける可能性があるのです。

災害は"いつか"起きるのではなく、"いつでも"起こりうる

ある調査で「お宅の地域に大地震が来ると思いますか?」と聞くと、9割以上が「そう思う」と答えました。しかし、「その大地震は明日来ると思いますか?」と聞くと、「そう思う」と答える人は2割になってしまう。多くの人が、いつか地震は起きるだろうが、それはまだ先だろうと考えているのです。
それを心理学用語で「正常性バイアス」といいます。
自分自身にとって都合の悪い情報を排除し、正常な状態がずっと続くだろうとリスクを過小評価してしまうのです。
「自分は大丈夫」と思うことが、いざというときの初動を遅らせてしまいます。

たとえば東日本大震災の時、津波がすぐ近くに迫っていても、足腰が悪いわけではないのにゆっくり歩いている人がたくさんいました。「津波がきているから逃げよう」と声をかけても「後から追っかけるから先に行っていて」という。
つまり、自分は大丈夫だという正常性バイアスが働き、"緊急スイッチ"が入らない。そういう人がいちばん犠牲になりやすいのです。
正常性バイアスが働く人は、凍り付き症候群になりやすい傾向があります。

凍り付き症候群から脱却し、地震がきたときすぐに動ける自分であるためには、災害はいつでも、どこでも起きると覚悟して、日ごろから備えることと訓練が大切です。普段から地震の小さな揺れを感じたり、緊急地震速報が鳴ったら、直ちに玄関などの安全ゾーンに退避しドアを開けて避難路を確保する癖をつけておきましょう。
次の章では、「家庭防災訓練」など家庭ですべき備えと訓練について詳しくお伝えします。

監修

山村武彦(やまむら・たけひこ)

防災システム研究所 所長

1943年、東京都出身。
1964年新潟地震でのボランティア活動を機に、防災・危機管理のシンクタンク 「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、 世界中で発生する災害の現地調査を実施。多くの企業や自治体の防災アドバイザーを歴任し、BCP (事業継続計画)マニュアルや防災マニュアルの策定など、災害に強い企業、社会、街づくりに携わる。実践的防災・危機管理の第一人者。著書は、「災害に強いまちづくりは互近助の力 ~隣人と仲良くする勇気~」(ぎょうせい)、「南三陸町 屋上の円陣 - 防災対策庁舎からの無言の教訓」(ぎょうせい)、「NHKまる得マガジン 家族を守る!現場に学ぶ防災術」(NHK出版)、「新・人は皆『自分だけは死なない』と思っている」(宝島社)など多数。