「在職老齢年金」とは 老後の資産設計のためのルールと仕組みを知っておきましょう

お金・資産のこれから

働くことは、収入面はもちろん社会との関わりを持てる、心身的にも健康的でいられるなど、大きなメリットがあります。改正される在職老齢年金で、給料セーブを考えず、「働きがい」を感じられるようになるといいですね。

【執筆者】續 恵美子

定年後も働く人が増えています(※1)。
働くことは心身の健康につながる以外に経済的な健康維持も期待できます。老後資金を貯めても経済的な不安を抱え続けるよりは、定年後にもできるだけ長く働き、収入を得るのもいいでしょう。しかし、年金を受給しながら働くと、収入額によっては年金額が減らされることが考えられます。これを「在職老齢年金」といいますが、老後資金計画において働くことを想定している人は、在職老齢年金を考慮した働き方をしたいものです。
今回は、在職老齢年金の概要や対象となる条件等について説明します。

在職老齢年金とは

在職老齢年金とは、「在職+老齢厚生年金」という言葉のとおり、厚生年金に加入しながら、受け取る老齢厚生年金のことです。

年金を受給しつつ働いて給料を得るというのには、老後の収入が増え、経済的に余裕のある老後生活を送れるイメージがあります。しかし、実は、在職老齢年金は、働いて「一定の基準」に当てはまってしまうと、働いているあいだは老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金も含む)の一部または全部が受給できなくなってしまうというものです。

老齢年金は原則として65歳から受け取ることができる年金ですが、これまでの年金制度改正で、現在50代で、厚生年金加入期間のある人のなかには65歳より前から受給できる人もいます。

ちなみに、65歳より前から65歳になるまで支給される年金を「特別支給の老齢厚生年金」、65歳から支給される年金を「老齢厚生年金」といいます。在職老齢年金も65歳を境として、前後で「一定の基準」に違いが設けられています。
在職老齢年金の仕組みやこれらの条件を見る前に、まずは自分が何歳から年金を受給できるのか確認しておきましょう。これにより、在職老齢年金もどちらの基準を確認するべきかが変わってきます。

定年を意識し始める年齢になると、自分が年金をいつから受給できるか気になる方は多いと思います。参考として下記に早見表を記載します。改めて確認してみてください。

▼「特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)」と「老齢厚生年金」の支給開始年齢

日本年金機構「老齢厚生年金(昭和16年4月2日以後に生まれた方)支給開始年齢」を基に筆者作表

在職老齢年金の条件

一定の基準に当てはまると老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金も含む)の一部または全部が受給できなくなってしまう在職老齢年金。その基準は次の2つです。

1.厚生年金(および健康保険)に加入して働く

一つ目の基準は、60歳以降も「厚生年金加入者」であるということです。
日本の年金制度には国民年金と厚生年金がありますが、国民年金は原則として加入は60歳で終わります。一方、厚生年金は、社会保険適用事業所に勤め、雇用契約、労働時間などの要件を満たしていれば60歳以降でも加入しなければなりません。また、国民年金は老齢基礎年金を受給できるのは65歳からですが、厚生年金の場合、前述したように生年月日によっては65歳前から受給することが可能です。つまり、年金を受け取りながら働いて年金制度に加入できるのは厚生年金だけであり、在職老齢年金は厚生年金だけの制度です。
60歳以降働いて収入がある人でも、自営業やパートなどで厚生年金に加入しない人は対象になりません。

2.給与や賞与の額(総報酬月額)と、年金月額を合わせた金額が「基準額」を超えてしまう

こちらはシンプルに言うと、「給与+賞与(1カ月相当分)+年金月額」が基準額を超えてしまうことです。基準額は以下のとおり、65歳未満の場合と65歳以上の場合で異なります(2020年4月時点)。

  • 65歳未満の基準額:28万円 (※2)
  • 65歳以上の基準額:47万円 (※3)

「給与+賞与(1カ月相当分)+年金月額」という基準を、もう少しかみ砕いて説明すると、以下のようになります。

  • 給与:年金支給月の標準報酬月額(健康保険料や厚生年金保険料を決めるもととなる金額)
  • 賞与:年金支給月以前1年間の標準賞与額を12等分した金額
  • 年金月額65歳未満の人:特別支給の老齢厚生年金(加給年金を除く)の月額
  • 年金月額65歳以上の人:老齢厚生年金(加給年金を除く)の月額

ここでいう給与と賞与を合わせたものを「総報酬月額相当額」、年金月額を「基本月額」と言います。つまり、次の式に該当すると、在職老齢年金として実際に受給できる金額が減額されてしまいます。

  • 65歳未満の場合:「総報酬月額相当額+基本月額」 > 28万円
  • 65歳以上の場合:「総報酬月額相当額+基本月額」 > 47万円

在職老齢年金はいくら受け取れるの?

在職老齢年金の受給制限に該当しそうな場合、「いくら年金が減額されて、結局いくらの年金をもらえるのか」が気になることと思います。
年金額を調整(減額)するための計算方法も、65歳前後で異なります。それぞれ見ていきましょう。

1.65歳未満の場合

実は、65歳未満の在職老齢年金の計算は4つのパターンに分けられており、少々複雑です。まずは、次のフローチャートで、どの計算式を使うのかを確認しましょう。

これらの計算式を見て、計算するのを面倒に感じる人もいるかもしれません。しかし、老後の大切な収入ですから、計算の仕方は知っておきたいものです。下記を例にシミュレーションをしてみましょう。

年金月額10万円、標準報酬月額20万円、年間賞与60万円の場合

まずは、基準額の28万円を超えているかどうかを確かめます。

「総報酬月額相当額+基本月額」=(20万円+60万円÷12)+10万円=35万円

28万円を超えているので、フローチャートにしたがい、「計算式1」を使います。

基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2
=10万円-(25万円+10万円-28万円)÷2
=10万円-7万円÷2
=6.5万円

結果、3万5,000円が減額されて、受給できる在職老齢年金は6万5,000円となります。

2.65歳以上の場合

65歳以上の在職老齢年金の計算は、65歳未満の場合ほど複雑ではありません。基本的には、「総報酬月額相当額+基本月額」が47万円を超えていれば、超えた部分の2分の1の金額が減額される仕組みです。計算式は次の通りです。

基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2

なお、65歳からは在職老齢年金に加えて老齢基礎年金も支給されます。在職老齢年金(厚生年金部分)は給与・賞与等の額によって年金額が調整されますが、老齢基礎年金および厚生年金の経過的加算額は給与・賞与等の影響を受けず、全額が支給されます。

老後、働き損にならないために

老後資金の補填にしたくて働こうと考えているのに、年金が減額されるのであれば働かないほうがよいのではないかと考える人もいるかもしれません。確かに本来受給できるはずの年金を減額されてしまうのは面白くないものです。しかし、先に見た例で言えば、働かずに年金収入だけの場合は月額10万円、働きながら年金を受給する場合は月額26万5,000円の収入になります。実際には社会保険料や税金も発生するため、手取り額はもう少し下がりますが、年金が減額されたとしても働くほうが老後の生活資金は多くなります。

「だったら、年金を減額されない範囲に給料を抑えられるように、労働調整をしたい」と考える人も出てくることでしょう。この場合、いくらまで稼いでよいのか、というよりも、「本来なら、いくら年金(厚生年金)をもらえるのか」をきちんと確認しておかなければなりません。

これまで見てきたように、在職老齢年金の額は、「給料」「賞与」「(本来の)年金額」の組み合わせによって決まります。
老齢厚生年金の金額は、毎年郵送される「ねんきん定期便」や日本年金機構の「ねんきんネット」でも確認できますが、あくまで見込み額で、定年までにまだ少し期間がある人は実際の年金額とずれる場合があることを知っておきましょう。老後設計の見込みがしっかり立てられるよう、本来の年金見込み額や在職老齢年金の金額は、年金事務所に相談し、確認してみるのもおすすめです。

在職老齢年金の改正で、基準額がアップ! より稼げるようになる?

今回、在職老齢年金の概要を見てきましたが、筆者としては、できる限り働き続けることをおすすめしたいと思っています。働くことは、収入面はもちろん社会との関わりを持てる、心身的にも健康的でいられるなど、大きなメリットがあります。

今年6月に、「年金制度改正法」が公布されました(※4)が、このなかには在職老齢年金の見直しも含まれています。65歳未満の基準額が、現行の28万円から47万円に引き上げられ、働き損になる人が少なくなりそうです。また、65歳以降の在職老齢年金に関しても、働きながら年金額を上げていく方式に改正されます。これは、在職年金を受給しつつ、給料から引かれている保険料分が1年毎に年金額に反映されるというものです。
これまでは、65歳以降に支払っている厚生年金保険料分は退職、または70歳になるまで年金額に反映しない仕組みでしたので、改正後のほうが、保険料の"払いがい"を感じやすくなりそうです。

老後の働き方は人それぞれです。しかし、経済的な充実を望んで働く人が多いのも事実です。改正される在職老齢年金で、給料セーブを考えず、「働きがい」を感じられるようになるといいですね。

※1 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2019年平均(速報)結果の要約」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf

※2 日本年金機構「60歳台前半の在職老齢年金の計算方法」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/20150401-02.html

※3 日本年金機構「65歳以後の在職老齢年金の計算方法」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html

※4 厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html

執筆者

續 恵美子

ファイナンシャルプランナー(CFP®)

生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。