50代から気をつける病気。予防・対策

災害時には命に関わる緊急事態!「飲んでいる薬が分からない」を防ぐには

50代から気をつける病気。予防・対策

災害の発生直後は、津波や火災などの二次災害が発生する危険性もあるので、自宅に薬を取りに戻ることができるとは限りません。避難先でスムーズに薬を入手するためには、使用している薬の正確な情報が必要です。毎日使用している薬がある場合は、いつ起こるか分からない災害に備え、薬の最新情報を用意・携帯するようにしましょう。

【執筆者】中西 真理

日本は、地震や台風などの自然災害が多い国です。水や食料と同じように、医師から処方された薬についても備蓄を心がけている方もいると思いますが、緊急時に薬を持ち出せる保証はありません。

もっとも、薬が手元になくても薬の内容が明らかであれば、同じ薬あるいは同じ効果の薬を入手しやすくなります。しかし、薬の名前は複雑で、規格(〇mg、〇μgなど)まで記憶することは困難です。

そこで今回は、いざというときに「飲んでいる薬が分からない」を防ぐ工夫をいくつかご紹介します。

災害時に薬の入手が困難になる理由

災害時に薬の入手が困難になる背景には、その場面ごとにさまざまな原因が考えられます。

被災地域の医療機関の背景

地震や豪雨による河川の氾濫などの大規模災害が発生すると、病院や薬局などの医療機関にも甚大な被害が発生します。地震で薬品棚などが倒れると薬を取り出すことは困難になりますし、浸水で薬が水に浸かれば、衛生面から廃棄せざるをえません。また、近年はカルテや薬歴(薬局で管理している薬の履歴を追える資料)の電子化が進み、停電時に薬の内容を確認できないケースも少なくありません。
このようなことから、被災地域の医療機関では、被災から数日~数週間は薬の提供が難しくなります。

避難所で薬の入手が難しい背景

避難所などでは早期から医療の提供が行われますが、災害発生直後はやけどや骨折など緊急度の高い人の救命が優先されます。そのため、高血圧や糖尿病など慢性疾患への対応は遅れがちになります。
また、避難所では地域の医療従事者だけではなく、ボランティアや災害派遣されたスタッフも医療の提供にかかわります。したがって、医療スタッフが頻繁に入れ替わることとなり、時には引き継ぎが不十分になることもあります。「薬が足りない」「薬が合わない」といった連絡も伝わりにくくなるため、薬の入手が困難になることも少なくありません。

なお、被災から数日が過ぎると各地から物資が届き始めますが、食品や水、衣類などと異なり、医薬品の仕分けは薬剤師など専門職でなければ難しく、手間も時間もかかります。
そのため、薬が患者さんの手元に届くまでには何日もかかる可能性があります。

医薬品の流通に関する背景

医薬品は、病院や薬局が医薬品メーカーから直接購入しているのではなく、医薬品卸を通じて購入しています。
医薬品卸は各地に物流センターを配置していますが、物流センターが被災すると医薬品の供給がとどこおります。物流センターが被災を免れても、道路が寸断されていたり、ガソリンの入手が困難になったりすると、医薬品を被災地に届けることが難しくなります。
また、医薬品メーカーの工場が被災すると医薬品が製造できなくなり、入手自体が不可能になります。
一方、物流が回復しても、いつも使っている薬が手に入るとは限りません。場合によっては、メーカーの違う薬やジェネリック医薬品しか手に入らないこともありますし、同じ効能・効果を持つ別の成分の薬を使用せざるを得ないこともあります。

医薬品を必要とする側の背景

医薬品の供給体制が整っていても、使っている薬の名前や規格が分からなければ薬を手に入れることはできません。たとえば、「血液をサラサラにして血管を詰まりにくくする薬で、〇〇ファリンという名前だった」ということまで覚えていても、「ワーファリン」なのか「バファリン」なのかが分からなければ、薬を渡すことはできません。包装や錠剤の色で示しても、同じ姿かたちを持つ薬は多いものです。このようなことから、薬の名前は正確に、そして規格まではっきり覚えておく必要があります。

また、遠方の医療機関にかかっていて、医療機関のすぐ近くの薬局で薬をもらっている場合、近隣の医療機関や薬局では薬を取り扱っていない場合もあります。
医療機関のすぐ近くにある薬局を利用することは便利な点もありますが、自宅近くにかかりつけ薬局を作っておくと、いざというときに薬が入手できる可能性が高まるので、再考の価値はあるでしょう。

薬を入手しやすくする工夫

災害に備えて、医師から処方された薬を最低でも3日分、できれば1週間分程度備蓄するのが理想といわれています(※)。とはいえ、被災のタイミングによっては薬を持ち出せるとは限りません。そこで医薬品を入手する重要なカギとなるのが、薬の正確な情報です。薬の記録をするものとしては「お薬手帳」がよく知られていますが、紛失などに備え複数の方法で情報を用意しておくことをおすすめします。

薬の包装は捨てずに保管しておく

災害時に運よくいつも使っている薬を持ち出すことができた場合は、薬を飲み終わっても薬袋や薬の包装を保管しておくことをおすすめします。薬袋には、薬の飲み方だけではなく、薬の名前が記載されていることもあります。包装を保管しておけば、薬の名前・規格を正確に把握できます。

お薬手帳などを活用する

お薬手帳には、薬の名前・規格・用法などが正確に記録されています。そのため、お薬手帳があれば避難所などでも薬を入手しやすくなります。お薬手帳は、外出時にもできるだけ携帯するようにしましょう。
最近は「電子お薬手帳」も普及していますが、通信環境が整っていない場所では情報を確認できないことも考えられます。スマートフォンのバッテリーが切れてしまうと、利用ができなくなるため、電子お薬手帳以外の方法でも薬の情報が入手できるようにしておきましょう。

スマートフォンの活用

いつも飲んでいる薬の写真を撮り、スマートフォンに保管しておくこともおすすめです。
こちらもバッテリーが切れてしまうと見ることができませんが、写真だけであれば通信環境が整っていない場所でも確認できます。

薬の写真は、包装に入った状態で撮るようにしましょう。薬剤名や規格がはっきり写っていると、薬の入手に役立ちます。なお、錠剤やカプセルのみでは、薬の判別が難しいため、一包化(用法ごとに1回分ずつパックされているもの)されている薬は、写真を撮っても効果的な活用が難しい場合があります。

二次元バーコードを作成する

薬の名前や規格、薬の写真などを二次元バーコード化して保存しておけば、簡単に薬の情報を携帯できます。
二次元バーコードは、さまざまなサイトで無料作成できますが、文字の入力などは自分でしなければならないので少々面倒です。薬の数が多くて入力が大変な場合は、お薬手帳の写真を二次元バーコード化しておくのも良いでしょう。
ただし、通信環境が良くない場所では、登録した情報が入手できないことがあります。あくまで補助的な位置づけで利用することをおすすめします。

情報を家族や親類間で共有する

薬の情報を用意したら、家族で共有するようにしましょう。外出先で被災しても、自宅に家族がいれば薬の情報を持ち出すことができます。
遠方に住んでいる親類に情報を預けることもおすすめです。被災地から遠く離れた場所であれば、薬の情報が津波や火災などで消失するおそれがないからです。

なお、薬の情報は最新のものを用意しましょう。薬の変更・追加などがあった場合は古い情報を廃棄し、新しいものと差し替えてください。情報の作成年月日を入れておけば、古い情報が残っていても混乱しません。

最新の薬の情報を用意して災害に備えましょう

高血圧や糖尿病などのほか、喘息、てんかん、統合失調症といった慢性疾患の薬は、継続して使用しなければ症状の悪化を招くおそれがあります。また、病気や薬の内容によっては、薬を中断することで離脱症状(禁断症状)があらわれることもあります。

しかし、災害の発生直後は、津波や火災などの二次災害が発生する危険性もあるので、自宅に薬を取りに戻ることができるとは限りません。そのような場合、避難先でスムーズに薬を入手するためには、使用している薬の正確な情報が必要です。

毎日使用している薬がある場合は、いつ起こるか分からない災害に備え、薬の最新情報を用意・携帯するようにしましょう。

参考文献・参考サイト

※ 公益社団法人 日本薬学会「健康豆知識>万全ですか?お薬の災害対策」
https://www.pharm.or.jp/mame/20190202.shtml

執筆者

中西 真理

公立大学薬学部卒。薬学修士。

医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。