50代から気をつける病気。予防・対策

抗がん剤治療中も仕事は可能? 収入を守りながら前向きに生きるためには

50代から気をつける病気。予防・対策

がんは怖い病気というイメージがあるかもしれませんが、医療の進歩により、抗がん剤をしながら仕事を続けられる時代になりました。まずは、就業規則や公的制度を調べ、いざというときはある程度の保障も頼りにしつつ、家族やがん患者会など周囲のサポートも受けながら、自分らしい生活を実現しましょう。

【ライタープロフィール】浅野すずか

がんは、死因順位1位の病気で、死亡総数の27.4%を占めています。(※1) そのため、がんは怖い病気というイメージがあるかもしれませんが、医学の進歩により生存率は年々上昇しています。

がんの治療法のひとつである「抗がん剤」は副作用が強く、以前は入院して投与が行われていました。しかし、現在は外来での投与も増えています。外来で抗がん剤ができれば仕事との両立がしやすくなりますが、実はさまざまな理由で退職する人も珍しくありません。

今回は、「がん患者の実態と就労問題」をテーマに、抗がん剤治療の現状や、仕事と両立するうえで考えておきたいことをまとめました。

病状が安定していれば、がんになっても仕事を続けられます。この記事が、がんと向き合いながら自分らしく生活するヒントになれば幸いです。

生存率が上昇! がん患者の実態と就労問題

国立がん研究センターの資料によると、生産年齢人口(20~64歳)における、がん罹患者数は増加していることが分かります(※2)。下記のとおり、がん罹患患者全体の4人にひとりは、就労可能年齢で罹患していることになります。

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)の情報を基に作図

なお、国立がん研究センターの最新データによると、2009年から2011年にがんと診断された人の5年相対生存率(あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標)は、男女計で64.1%でした。(※3 部位別の細かい生存率は、国立がん研究センターのウェブサイトからご覧になれます)

がんの部位によって差があるものの医療の進歩によって、生存率は年々上昇しています。がんになったからと人生を悲観することはありません。むしろ、治療後も人生が続くことを考え、仕事を続けるかどうか考える必要があります。しかし、現状は働き方を変えざるを得ない人も少なくありません。

下記のグラフでは、がんと診断を受けた当時、260人が正社員として働いていましたが、現在は209人と約8割に減少していることが分かります。一方、「自営業者」「パート・アルバイト」は増加しています。ここからは現在のライフスタイルに合わせた働き方を模索した、もしくは、正社員としての復帰が困難だった結果と考えることができないでしょうか。また、「無職(専業主婦を含む)」は、4.9%から13.3%と2.7倍に増えており、診断当時のような生活に戻ることの難しさを示唆しているようにも感じられます。

厚生労働省 働くがん患者と家族に向けた 包括的就業支援システムの構築に関する研究班「治療と就労の両立に関するアンケート調査 結果報告書(2012年8月) 8ページ」の情報を基に作図

がん患者の退職理由に関する調査もあります。独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、がん患者の勤め先の退職理由のうち、疾患に関する退職理由(依願退職、休職期間満了によるもの)は、以下の通りでした。

退職理由

%(複数回答可)

仕事を続ける自信がなくなった

21.5

治療・療養に専念するため

21.2

会社や同僚、仕事関係の人々に迷惑をかけると思った

20.8

治療や静養に必要な休みをとることが難しかった

17.4

残業が多い職場だった

11.1

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「調査シリーズNo.180 病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(WEB患者調査)」の情報を基に筆者作表

がんによる体調面の問題だけでなく、「仕事を続ける自信がなくなった」「会社や同僚、仕事関係の人々に迷惑をかけると思った」など、自分の精神的なことや職場への遠慮が退職理由の上位に挙がっているのが特徴です。

外来で行う抗がん剤の実際とメリット・デメリット

以前、抗がん剤による治療は入院して行われていましたが、現在は外来で行われることも多くなりました。実際、治療を受ける人も、徐々に外来が増加。平成29年現在、入院患者数は126万人ですが、外来患者数は183万人と大きく上回っています(※4)。

外来の患者数が増えたのは、医学の進歩により抗がん剤治療のレベルが向上したためと考えられます。

これまで抗がん剤には強い副作用があり、なかでも吐き気は患者を苦しめてきました。しかし、投与方法の工夫や薬の改良等により、こうした副作用は以前よりも軽減されています。

さらには、飲み薬タイプの抗がん剤を治療に用いることで、自宅治療が可能となったことも、外来が増えた要因と言えるでしょう。点滴と比べて長い時間拘束されないので、より自由度が高くなります。

しかし、がん患者全員が外来で治療できるわけではありません。同じ部位のがんであっても、状態によって治療法は異なるからです。外来で抗がん剤の投与を受けるには、「全身状態が比較的安定している」「抗がん剤や副作用について説明を受け、対処できる」といった原則があります。 また、抗がん剤の種類や治療スケジュールによっては、入院が必要です。副作用の程度をチェックするため、初回のみ入院することもあります。

外来で抗がん剤の投与を受けることができれば、仕事や家事などの日常生活を送りながら治療できます。住み慣れた自宅でリラックスしながら過ごせることも、治療中の人にとっては大きなメリットでしょう。ただし、次のような注意点を念頭に置く必要があります。

  • 副作用を理解し、もし不調を感じたときには自分で対処する
  • 体調に応じて、家族に生活のサポートをお願いしたほうがよい場合もある
  • 病院が遠方の場合、通院の負担が増える

このように、外来での抗がん剤にもメリットとデメリットがあるので、どちらも把握したうえで治療にのぞむ必要があります。

抗がん剤と仕事を両立するメリット・デメリット

メリット

収入が途絶えない

がんの治療にはお金がかかりますし、治療後の生活も考えなければいけません。しかし、会社を辞めなければ収入はゼロになりません。

健康保険や厚生年金など社会保険制度への加入を維持できる

会社員は、健康保険や厚生年金などの社会保険制度に加入しています。これらの制度を継続できれば、無職や自営業に比べて手厚い保障が受けられます。

社会とつながり、やりがいを維持できる

収入を得ることももちろんですが、働くことでやりがいを得ることも治療をするうえで好影響となるでしょう。社会と関わり、役割を果たすことで、生き生きとした人生につながります。

デメリット

体調が悪くなっても急に休めない

職場の環境にもよりますが、体調不良で休みたくても急に休めないこともあります。

職場の理解が得られないと、居づらくなってしまう

体調不良や通院で休みがちになったり、出社しても普段通りに働けなかったりすると、人によっては周囲の目が気になるかもしれません。そうなると、居心地の悪さを感じて精神的につらくなってしまいます。

抗がん剤と仕事を両立するためのポイント5つ

この章では、抗がん剤による治療と仕事を両立するためのポイントをまとめました。

就業規則を調べる

まずは、会社の就業規則を調べてみましょう。年次有給休暇のほかにも、傷病休暇、時差出勤、在宅勤務など、会社によってさまざまな制度があります。どの就業規則を使えば両立できそうか、シミュレーションしてみてください。

職場に病状や治療スケジュールを伝える

上司には、こまめに状況を伝えて理解を得るようにしましょう。上司としても、どのような状況なのか分からないと、サポートしたい気持ちがあっても戸惑ってしまいます。副作用や治療スケジュールは、主治医にいくつか見通しを立ててもらったうえで伝えるとスムーズです。
そして、同僚には伝えるべきか迷う人も多いと思います。詳しい病名までは伝えなくてもいいですが、病状を伝えることで協力を得られることもあります。同僚との関係性や職務内容などによって、伝える内容とタイミングを考えましょう。

がんになる前と同じレベルで働こうとしない

病状が落ち着いても、体力が完全に戻らないことも考えられます。もしも、がんになる前と同じように働けなくても、落ち込まないでください。正社員で働くのがつらい場合は、契約社員やアルバイトなど雇用形態の変更を検討するのもひとつの方法です。

周囲のサポートに頼る

家事を手伝ってほしい、不安な気持ちを吐き出したいなど、困ったことがあれば周囲を頼りましょう。家族だけでなく、がん患者で結成される患者会も心強い存在です。また、がん相談支援センター、がん相談ホットラインなど、専門の相談窓口もあります。

公的制度を活用する

ライフネット生命保険株式会社の調査では、がんになった人の収入は、なる前と比べて平均20%減少、という結果が出ています。約半数の人が、「収入が半分以下」になったと回答しており、「収入ゼロ」という回答も2割存在しています。

ライフネット生命保険株式会社「がん経験者 572 名へのアンケート調査(2017年8月1日)」の情報を基に作図

がんにかかれば、収入の減少はあり得ることと認識し、経済的な負担を軽減するために公的制度を活用して備える必要があります。

経済的負担を軽減したい! 利用できる公的制度

がんになったとき、利用できる制度をピックアップしました。金銭面の不安は、こころに重くのしかかってきます。利用できる制度はぜひ活用しましょう。

高額療養費制度

1カ月間にかかった医療費が一定の金額を超えたとき、超えた分の医療費が支給されます。事前に限度額適用認定証を申請し、提示することで、窓口での支払いを上限額内に抑えることができます。

高額医療・高額介護合算療養費制度

医療費と介護費を合計した自己負担額が上限額を超えた場合、超えた分の費用が支給されます。この制度は、同じ世帯に住み、同じ医療保険に加入している人の自己負担額を合算できます。

医療費控除

1年間にかかった医療費が一定額を超える場合、確定申告をすると所得控除が受けられます。医療費は、生計を共にする家族であれば合算できます。

傷病手当金

仕事を休んだ日が3日間続き、4日目以降も休んだ場合に4日目以降の手当金が支払われます。

障害年金

がんによって1年6カ月以上続く障害がおき、日常生活が難しくなった場合に受け取れます。目に見える障害でなくても、だるさや痛みなど内面的なものでも認められる可能性があります。

生活福祉資金貸付制度

所得の少ない世帯や障害者世帯などを対象に、低利子や無利子での貸付や相談援助を行います。「がんで退職を余儀なくされた」「再就職したいが就職先が決まらない」など、生活が困窮したときに利用できます。

まとめ

医療の進歩により、抗がん剤をしながら仕事を続けられる時代になりました。もちろん無理をして仕事を続ける必要はありませんが、体調が落ち着いていて仕事がしたいと思うのであれば、抗がん剤治療と両立する道を模索してはいかがでしょうか。

まずは、就業規則や公的制度を調べ、いざというときはある程度の保障も頼りにしつつ、家族やがん患者会など周囲のサポートも受けながら、自分らしい生活を実現しましょう。

※1 厚生労働省 「平成30年(2018)人口動態統計(確定数)の概況 第6表 性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/dl/10_h6.pdf

※2 国立がん研究センター がん情報サービス「グラフデータベース」を活用のうえ算出
http://gdb.ganjoho.jp/graph_db/index?lang=ja

※3 国立がん研究センター がん情報サービス 「最新がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

※4 e-Stat 政府統計の総合窓口 「患者調査 平成29年患者調査 上巻(全国) 上巻第3-2表 推計患者数の年次推移,入院-外来×傷病分類別(平成8年~29年) 悪性新生物<腫瘍>(再掲)」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003300681

ライタープロフィール

浅野すずか

フリーライター

看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた分かりやすい記事を執筆。