幸せなシニア以降の人生のために

サルコペニアとフレイルの違い・予防法とは 健康的にからだを動かしイキイキしたシニアライフを!

身体のこれから

サルコペニアはもともと、進行性の筋肉量減少と筋力低下を意味していましたが、近年はそれだけでなく、さまざまな身体機能の低下も含めて意味するようになりました。一方フレイルは何かの病気の名前ではなく、からだに異常をきたしやすい状態を表しています。サルコペニア・フレイルは医療者が治療するものではなく、普段からの予防を心がける必要があります。

【ライタープロフィール】surgyuichi

令和元年の簡易生命表(※)によると、日本人の平均寿命は男性が81.41歳、女性が87.45歳と世界有数の超高齢化社会を迎えています。しかし、平均寿命まで健康に生きられている方はどのくらいいるのでしょうか。

年齢を重ねるとともに、足腰の力が落ちて外出が億劫になったり、食事を噛むのがしんどくて食事量が減ったりしてはいませんか? これらのように、加齢にともなう全身の筋力を含めた身体機能の低下や、消化吸収、意欲の低下と言った生理機能の低下を、「サルコペニア」や「フレイル(虚弱な状態)」と呼びます。このほか、骨や関節、筋肉の衰えによる肉体機能の低下を特別に「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と呼んだりもします。

高齢者では、持病や加齢による身体機能の低下、内服薬の副作用、独居や経済的問題などのために、簡単に低栄養やサルコペニアになってしまいます。また、フレイル高齢者は何かの病気になった際、すぐに日常生活動作(Activities of Aaily Living: ADL)が落ち、要介護や寝たきり状態にとなってしまいます。

本コラムでは、最近よく聞く「サルコペニア」「フレイル」とはいったい何なのか。私たちのからだにどのような悪影響を及ぼすか、どのような対策を取ればよいのかを詳しく説明していきます。

サルコペニア・フレイルとは

サルコペニア(sarcopenia)はギリシャ語で、「筋肉(サルコ)が減少する(ペニア)」を併せた造語として誕生しました。歴史はまだ浅く、1989年にアメリカの学会で初めて使用されたと言われています。

サルコペニアはもともと、進行性の筋肉量減少と筋力低下を意味していましたが、近年はそれだけでなく、さまざまな身体機能の低下も含めて意味するようになりました。

一方フレイルは、英語の「frality(虚弱)」の日本語訳として、2014年に日本老年医学会が提唱した言葉です。fralityという言葉は、欧米では数十年前から使用されていましたが、当初は「ADLが自立できておらず、多くは介護施設に入所している高齢者」というあまり良くないイメージを強く持つ言葉でした。

その後、さまざまな介入を行うことでフレイルが改善するとわかってきたため、今から20年ほど前から「からだの予備力が低下し、身体機能障害に陥りやすい状態」と意味が変わってきました。
フレイルは何かの病気の名前ではなく、からだに異常をきたしやすい状態を表していることに注意しなければいけません。

私はサルコペニア? フレイル?

サルコペニアやフレイルは全世界で問題になっているため、自分自身で行うチェックリストや、簡単な検査方法が多数開発されています。

アジアにおいては、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)という団体が、アジア人に特化したサルコペニアの診断基準を作製しています。私たち日本人のサルコペニア診断も、このAWGSの診断基準を用いて行っており、以下の3つを重要項目としています。

AWGS2019によるサルコペニア診断基準 Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc, in press

  1. 筋肉量の低下(BMIが18.5未満、もしくまたはふくらはぎの最も膨らんだ部分が、男性34㎝未満、女性33㎝未満)
  2. 握力の低下(男性28kg未満、女性18kg未満)
  3. 歩行速度の低下(歩行速度が1m/秒以下)または、イス5回立ち上がりテスト(12秒以内)

とはいえ、握力計を常備したり、ストップウォッチで歩行速度を測ったりしなくても、簡単にチェックできる方法があります。東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢先生が開発した「指輪っかテスト」です。

こちらのテストは、両手の親指と人差し指で輪っかをつくり、ふくらはぎを囲めるかどうかを見るだけで、サルコペニアの危険度が確認できるというものです。
輪っかと筋肉のあいだに隙間ができてしまうようなら、筋肉量が十分とはいえず、今後、サルコペニアになる危険度が高いと判断されます。

出典:東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢「フレイル予防ハンドブック」から引用

一方でフレイルは、その言葉を生んだLinda P. Friedによって、定義がなされています。以下のうち、3つ以上が当てはまると「フレイル」、1つまたは2つが当てはまる場合を「フレイル予備軍」としています。

  1. 体重減少
  2. 疲労感
  3. 活動量の低下
  4. 歩行速度の遅延
  5. 筋力低下

フレイルの診断基準は、筋力低下によって引き起こされる状態がほとんどです。そのため、「サルコペニア予防=フレイル予防」と言っても過言ではありません。

予防には筋力トレーニングと適切な食事が大切です

サルコペニア、フレイルは全身の筋肉量減少、筋力低下が原因であるため、予防には筋肉力の増量、筋力アップが重要です。最近はジョギング、マラソン、フィットネス、ダイエットがブームになっているため、筋力トレーニングの情報はさまざまなメディアから得ることができます。ところが、普段の食事やトレーニング後の食事内容を正しく伝えているところはまだそれほど多くはありません。

筋肉量を維持、または増やすためには、適切なトレーニングとたんぱく質や糖質の摂取が重要です。特に高齢者になるほどたんぱく質の摂取量を増やさなければならないにもかかわらず、逆に食事量を減らしたり、糖質だけに偏ったりするようでは、筋肉量が減る一方です。

厚生労働省が2015年に発表した「日本人の食事摂取基準」では、高齢者のフレイル予防の観点から、65歳以上では総摂取エネルギーの最低13%を、たんぱく質由来エネルギー量とするよう指導しています。これは、体重60kgの方であれば平均50gのたんぱく質を毎日摂取する必要があり、ということです(※3)。もちろん定期的な運動をしている方であれば、これよりも多くたんぱく質を摂取して構いません、

毎日の食事で、どのくらいたんぱく質の量を摂取するか、考えて食事をしていますか? 食品には含有たんぱく量が記載されていますので、一度確認してみましょう。ご自身で確認することが難しければ、通院先の管理栄養士に相談することをお薦めします。

サルコペニアやフレイルは万病のもと

サルコペニア・フレイルは外科手術後の合併症を増やしたり、余命を短くしたりと健康を脅かす原因のひとつです。どのようなことが起こってしまいかねないのか、具体的な内容を例に挙げてお伝えします。

外科手術の合併症を増やす、サルコペニア・フレイル

比較的安全に受けられる手術であっても、サルコペニアやフレイルであると、手術の内容によっては、思いもよらない合併症を起こすことがあります。
現役外科医師である筆者がよく目の当たりにする患者さんの例として、複数の臓器機能が低下している、入院期間中にADLが極端に低下する、極度のストレスによるせん妄状態や認知機能の低下がみられる、もともと低栄養の方が多い――などがあります。これらはすべてサルコペニア・フレイルの影響を受けています。

命を縮めるサルコペニア・フレイル

サルコペニア・フレイルでは、何か病気にかかった際の回復が遅れるだけではなく、サルコペニア・フレイルであることだけで余命が短くなると言われています。
「日本の食事摂取基準(2015年版)」では、過去の研究のうち、最も総死亡率が低かったBMIを元に、各年代での目標とするBMIが設定されており、50~69歳では20~24.9、70歳以上では21.5~24.9とされています(※3)。
サルコペニア・フレイルの方は筋肉量が減少しているため、当然ながらBMIも低い傾向があります。

最近では、体脂肪が多く筋肉量が少ない"サルコペニア肥満"という状態が指摘されるようになりました。体重はあるのでBMIは正常値になりますが、全身の筋肉量は少ないためサルコペニア・フレイルに陥りやすくなります。

サルコペニア・フレイルに陥った後で回復しようと試みても、なかなか上手くはいきません。日常から定期的な運動を行い、たんぱく質の摂取に重点を置いた、バランスの良い食生活を目指す必要があります。

まとめ

いかに医学が進歩しても、もともとのからだの状態が弱っていれば、助けられる病気でも命を落としてしまうことがあります。幸い命は助かったとしても、筋力低下により歩くことができなくなった場合は、長いリハビリや闘病生活を送ることとなり、自分の日常生活だけでなく家族の生活にも多大なる影響を与えることになります。

医療者と言えども、サルコペニア・フレイルのことを熟知しているわけではありません。サルコペニア・フレイルは医療者が治療するものではなく、普段からの予防を心がける必要があります。

本コラムを通して、長く元気に生活できるからだ作りを目指していただければ幸いです。

※1 厚生労働省「Press Release 令和元年簡易生命表の概況を公表します(令和2年7月 31 日)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/dl/life19-14.pdf

※2厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要 p 8.たんぱく質」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf

※3 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要 p7. 目標とするBMIの範囲
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf

ライタープロフィール

surgyuichi

国立大学医学部卒。現役の外科医師。

医学博士、外科専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科学会技術認定医など。現在も外科医として数多くの手術をこなしながら、病気や医療に関する記事を執筆。