30〜40代で気にしなければならない健康と予防対策

「予防医療」をご存知ですか? 将来の健康のために今からできること考えよう

身体のこれから

予防医療は、個人の生活の質(QOL)を高めるだけでなく、元気に活躍できる人を増やす考え方です。社会全体を活性化させることにもつながることを理解し、ぜひ健康寿命を伸ばしていただきたいと思います。

【ライタープロフィール】surgyuichi

私たちは、何らかの症状を感じて病院へ行き、そこで初めて診断や治療を受けます。
かぜをひいた、お腹が痛い、血圧が高い、健康診断で脂肪肝と言われた、など病院を受診する理由はたくさんあります。
命に関わらない病気であればよいですが、なかには心筋梗塞や脳卒中など、ひとたび症状が出てしまうと、その後の人生に大きな影響を与える病気もあります。

普通私たちは、何らかの病気と診断されてから初めて病気の予防や治療に気を配れば十分、と思ってしまうものです。しかし一度病気になってしまうと、「定期的に病院へ通院しなければならない」「定期的に薬を飲まなくてはならない」「食べたいものが食べられない」など、不自由な日常生活を送らざるを得なくなります。

そして近年、このような不自由な状態にならないように、病気になることを予防するための「予防医療」という考え方が注目されています。

今回は、この予防医療の考え方やその利点について解説します。

予防医療はどのような医療?

日本では、国民の健康維持と生活習慣病の予防を目的として、平成14年に「健康増進法」が制定されました。これにより、実は国民には、"生涯にわたって健康の維持に努める"ことが義務付けられています。
メタボ健診と呼ばれる特定健診や、平成30年に発令された「改正健康増進法」による受動喫煙防止対策は、生活習慣病の発症や望まない受動喫煙による疾病の予防を目的とした「予防医療」とも考えられています。

メタボ健診では高血圧、脂質異常(高脂血症)、耐糖能異常(糖尿病の前段階)、喫煙などのメタボリックシンドロームになっていないかを調べ、心筋梗塞、脳卒中(脳血管疾患)、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、がんなどの生活習慣病を発症しないよう働きかけています。
これらの生活習慣病は、薬を飲んだり病院へ通院したりするだけで、すぐに良くなるものではなく、一度発症してしまうと症状を悪化させないための自己管理が必要となります。

そのほかにも、一度発症すると重症化してしまう病気に対しては、幼少期をはじめとする、各種ワクチンの積極的な接種による予防策が取られています。

健康な余生を過ごすための健康づくりと疾病の予防、機能の回復への取組みを総称して、「予防医療」と呼びます。

予防医療のホップ、ステップ、ジャンプ

予防医療は、以下の3つの段階に分かれています。

1.ホップ(一次予防):健康増進、疾病予防、特殊予防

一次予防では、生活習慣や生活環境の改善による生活習慣病の予防、健康教育による健康リテラシーの醸成、さまざまな予防接種による特定疾病の発症予防、事故防止による障害発生の予防を目的とします。

予防接種に関しては、一部で副作用が問題になり、接種が見合わされるような状況にあります。効果や安全性が確立されているものと、効果や安全性が保証されていないものが混在しているため、注意が必要です。

2.ステップ(二次予防):早期発見、早期治療

二次予防では、主に人間ドック、企業の健康診断や市区町村の主催するがん検診などで、病気を早期に発見することを目的としています。
重症化した状態で病気が発見されると、治療には莫大な費用と時間が必要となりますので、早期発見・早期治療が重要です。

3.ジャンプ(三次予防):リハビリテーション、再発予防

三次予防では、一度かかってしまった病気の再発予防、障害された機能改善を目指すリハビリテーションや就職支援などによる社会復帰を目標とします。
健康な人生を送るうえで、この三次予防も重要な役割を果たしています。

なぜ予防医療が必要か

現在、急激な高齢化や生活習慣の変化にともない、がん、心臓疾患、脳卒中などの生活習慣病を罹患する割合が高くなっています。生活習慣病に対する年間医療費は年々増大しており、日本の医療財政を圧迫していることはみなさんもご存知のことでしょう。
一番の目標は健康に過ごせる期間を長くすることですが、医療費削減を目指すこともまた、重要な目標です。

また、勤労者に対する健康確保も予防医療の重要な一面です。独立行政法人労働者健康安全機構によると、全国の治療就労両立支援センターでは「作業動作による運動機能障害、高齢勤労者特有の健康障害、勤労女性特有の健康障害、ストレスまたは不眠に対する効果的な予防法・指導法の開発を行い、様々な対策を立てている」とされています(※1)。

さまざまな病気に対する予防医療

現代医学において予防できるのは、これまでお話しした生活習慣病や労働者の健康確保だけではありません。一部のがんや病気に関しては、その原因が明らかになっているため、あらかじめ予防できる可能性があります。

1.ピロリ菌と胃がん

ヘリコバクターピロリ菌(以下「ピロリ菌」)という菌の名前を聞いたことはありませんか? ピロリ菌は、もともと土壌や井戸水の中に生息する菌ですが、我々の胃の中に入ってしまうと、そこで最初は胃の粘膜に軽い炎症を起こします。
感染して時間が経つにつれて慢性胃炎の状態になり、胃の粘膜が萎縮し始めます。最終的に「萎縮性胃炎」という状態に変化し、この萎縮性胃炎となった胃粘膜から胃がんが発生するとされています。

世界保健機関の国際がん研究機関(IARC)は、ピロリ菌が胃がんの原因であると示し、積極的に除菌をするよう勧告しています(※2)。
日本では、胃がん患者の98%がピロリ菌に感染しており、2013年にピロリ感染による胃炎に対する除菌治療が保険適用されて以来、胃がん患者数は急速に減少しました。
このことから、ピロリ菌を治療することで胃がんが予防でき、多くの命が救われています。

2.がんを引き起こす特殊な遺伝子:BRCA

乳がんや卵巣がんなど、女性に特有ながんがありますが、近年、これらは遺伝的に発生することがわかりました。
「BRCA-1」「BRCA-2」という遺伝子に異常があることを「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer syndrome: HBOC)」と呼んでいます。

国立がん研究センターは、「HBOCの女性は、親から子に二分の一の確率で発がんのリスクが遺伝し、その生涯に乳がんに41-90%、卵巣がんに8-62%の頻度で発症する」と報告しており、若い年齢で発症する傾向やがんが多発する傾向がみられるといいます(※3)。

家系のなかでHBOCが疑われる女性がいた場合、その血縁者にHBOCが産まれる確率は非常に高いといえます。そのため、血縁者も遺伝子検査を受けるかどうか、将来的に高確率でがんに罹患するリスクがあることをどう説明するかが、とても難しい問題です。

この二つのがんに関しては、「予防的切除」という方針があります。将来的にがんとなるおそれのある乳腺と卵巣を、予め切除してしまうというものです。あくまでも予防ですが、ある調査によると、卵巣癌による死亡リスクを約80%、乳がんによる死亡リスクを56%下げる効果があるとされています。

健康体にメスを入れることは、外科医にとっては旧来よりタブーとされている医療行為であり、予防できるからと言って安易には選択しがたい方法でもあります。

もしもHBOCと診断されてしまった場合は、遺伝性疾患の専門医やカウンセラーと入念な相談をすることをお勧めします。

まとめ

いかに医学が進歩しても、手の施しようがないくらい進んでしまった病気までは完全に治すことができません。仮に症状を和らげることができたとしても、不自由を強いられるなど、その後の人生に大きな影響を与えてしまいます。

予防医療は、個人の生活の質(QOL)を高めるだけでなく、元気に活躍できる人を増やす考え方です。
社会全体を活性化させることにもつながることを理解し、ぜひ健康寿命を伸ばしていただきたいと思います。

※1(引用)独立行政法人労働者健康安全機構 予防医療モデル事業
https://www.johas.go.jp/yobomodel/tabid/1012/Default.aspx

※2(参考) 認定NPO法人 日本胃がん予知・診断・治療研究機構 「IARCのリリース」
https://www.gastro-health-now.org/messages/世界保健機関(who)の専門組織である国際が/

※3(引用)国立研究開発法人国立がん研究センター 「広報活動>プレスリリース>遺伝性乳がん・卵巣がんのリスクとなるBRCA2遺伝子バリアントの新規機能解析方法を開発>背景」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0522/index.html

ライタープロフィール

surgyuichi

国立大学医学部卒。現役の外科医師。

医学博士、外科専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科学会技術認定医など。現在も外科医として数多くの手術をこなしながら、病気や医療に関する記事を執筆。