お口の健康守れていますか? 健康維持・介護予防にとても役立つ口腔ケアに取り組もう

身体のこれから

意外と知られていませんが、食事をする、話すなど、普段何気なく行っているお口の働きも介護予防には重要です。口腔の健康を維持・向上することの大切さを知っておくだけでも、生活の質の向上が可能です。

【執筆者】柴田 育

皆さんは、「介護予防」という言葉を聞いたことがありますか?
厚生労働省では、介護予防を「要介護状態の発生をできる限り防ぐこと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」と定義しています(※1)

自分はまだ大丈夫と思っていても、新しい病気の発生や持病の悪化、事故やケガ、生活環境の変化などで、生活機能が低下し、要支援・要介護になることは、いつでも起こりえます。そうならないためにも、自分でもあらかじめ予防する努力をすることが大切です。

実は、「介護保険法」という法律でも国民自らが要介護状態になることを予防するための努力について規定されています。
介護予防では、高齢者の精神、身体、社会的な活動性を維持・向上させることが大事です。意外と知られていませんが、食事をする、話すなど、普段何気なく行っているお口の働きも介護予防には重要です。飲み込みが上手に出来なくなってくると、誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうこともあります。

今回は、お口をずっと健康に保ちたい方のために、介護予防に役立つ口腔ケアに関して、自宅で出来るチェックやケア方法を歯科医師がわかりやすく解説します。

お口の健康向上にはどんな効果があるの?

「お口の健康」は全身の病気とは一見関係ないと思われがちですが 、実は健康向上、介護予防に大きく関係しています。科学的に論証されている口腔機能の向上による効果として、以下のようなものが挙げられます。

▼口腔機能向上の効果

【社会生活にかかわること】
1.食べる楽しみを得ることから、生活意欲の高揚がはかれる
2.会話、笑顔がはずみ、社会参加が継続する
3.自立した生活と日常生活動作の維持、向上がはかれる

【心身機能にかかわること】
4.低栄養、脱水を予防する
5.誤嚥、肺炎、窒息の予防をする
6.口腔内の崩壊(むし歯、歯周病、義歯不適合)を予防する
7.経口摂取の質と量が高まる

厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)|第5章 口腔機能向上マニュアル」を基に筆者作成

口や歯は、「食事をする」「会話をする」など、普段何気なくしている重要な役割を担っています。物を食べる、話すということができなくなってしまうと、機能的な問題だけではなく食べる楽しみが失われる、話す楽しみが失われるなど、社会活動の質を大きく落としてしまいます。

口腔ケアの重要性と、ケア不足で起こるリスク

身体と同じように、お口の機能にも加齢によって変化が現れます。まず、お口の中に起こる変化のひとつとして、歯周病等の歯科の病気により歯が失われていくことがあります。もしも状態が悪いまま治療を受けずにしていると、かみ合わせが崩れ、状態がさらに悪化することがあります。

2つ目の変化には、つば(唾液)の出が悪くなることが挙げられます。唾液には、お口の中を清浄にし、潤滑にする役割があります。そのため、唾液の出が悪いと汚れがたまりやすくなったり、お口や舌が傷つきやすくなったりします。

お口から、範囲をもう少し広げてみましょう。

飲み込む時に使う筋肉は、実は口だけではなく、首まわりの筋肉まで働きます。飲み込むことを「嚥下(えんげ)」といいますが、加齢によって嚥下が上手にできなくなることがあります。こうなると、食事のときにむせやすくなるなどが起きやすくなります。

人間の身体はよくできていて、同じ口から入った食事と空気の行き先をそれぞれ分けることができます。本来は空気だけが入る気管に異物が入ってしまうことを「誤嚥(ごえん)」といい、これが起きると「誤嚥性肺炎」と呼ばれる肺炎を引き起こしてしまうことがあります。実際、誤嚥性肺炎は死因の原因の上位に挙がっています(※2)

このように、加齢によってお口の機能には、かみにくい、むせやすい、汚れがとれにくいなどの変化が起きる場合があります。一番知っておいていただきたいのは、お口の衰えが誤嚥性肺炎など、命に関わる病気を引き起こしてしまうおそれもあることです。

なお、こうしてお口の機能を維持することの重要性を知ること自体も、厚生労働省の定める介護予防のプログラムに取り込まれています。介護予防としての口腔機能の向上の大切さや、その意義、内容が、高齢者を含む一般市民にほとんど理解されていない現状にあるためです。

加齢により口腔機能が低下することを不安に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、口腔ケアにより予防することが可能です。

自分でできる口腔機能チェック

この章では、チェック項目と口腔ケア方法について解説します。
早速ですが、以下のチェックをしてみましょう。

  • 半年前に比べて固いものが食べにくくなった
  • お茶や汁物等でむせることがある
  • 口の渇きが気になる

厚生労働省「介護予防マニュアル」より

当てはまる項目はありましたか? どれも日常的に起こりそうな内容なので、まさかこれらが介護に関係するとは思えないかもしれません。しかし、これらは厚生労働省の「介護予防マニュアル」で定められている基本チェックリストにあるものばかり。
3項目のうち、2つ以上該当する場合は、要介護状態になるおそれが高いと認められ、介護予防の対象者になります。

なお、こちらのマニュアルには、口腔の状態がわかる細かい項目も設けられています。気になる方は、実際のシートで確認してみましょう。

口腔機能自己チェックシート(「別添資料5-1 口腔機能自己チェックシート(例)」を参照ください)

お口の健康維持のための口腔ケア方法

まず、お口の健康維持に重要なのは、日常的な口腔清掃・摂食機能の向上訓練です。生活習慣の一部として定着するように取り組むと続けやすいでしょう。
これらのセルフケアと合わせて歯科医師や歯科衛生士によるプロのケア、もしくは、介護予防事業者等のケアを受けることも重要です。

日常的なセルフケアによる口腔清掃には、歯みがきや入れ歯の清掃などがあります。入れ歯を使用している場合は、必ず入れ歯を外して歯をみがき、その時に入れ歯の清掃も行いましょう。
入れ歯は、歯みがき粉を使うと削れてしまうので、そのまま清掃するようにしましょう。定期的に入れ歯洗浄剤を利用すると雑菌の繁殖を防ぎ、より清潔に保つことができます。
ただし、使いすぎると金属の部分が壊れてしまうこともあるので、使用方法に応じた頻度にとどめましょう。

お口の乾きに対しては、唾液の分泌を促す唾液腺マッサージがあります。頬(耳の前)・顎の下にある、唾液腺という唾液が出る部分をマッサージすると唾液がでてきます。

お口や嚥下の動きを維持するには、口腔体操や嚥下の体操を行います。舌を動かしたり、うがいをぶくぶくとしたり、30秒に何回生唾を飲めるか(2回以下の場合は、嚥下機能の低下が疑われます)を測定したりと、さまざまな体操があります。

家族と離れて暮らしているなど、会話する機会が減ってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、発音・発声も意識しましょう。「パ」「タ」「カ」を10 秒間に何回言えるか数えてみましょう。唇や舌の運動になります。

基本的なことですが、食事の環境や姿勢を整えることも重要です。

ここまで自宅でできるセルフケアの内容を説明しましたが、そもそも歯がないとよく噛めなくなってしまいます。定期的に歯科を受診し、治療が必要な部位をそのままにしないよう心がけましょう。その際、歯やお口の状態、歯みがきの方法に問題がないかチェックを受けるとよりよいでしょう。

最後に

日頃当たり前に行っている、食事を楽しむ、話す、飲み込むなどは、要介護状態になると当たり前ではなくなります。口腔機能の低下によって、誤嚥性肺炎など重篤な病気になってしまうおそれもあります。

また、2020年は新型コロナウィルスが世界中に蔓延しています。そのなかで、口腔ケアは、集中治療室での管理中に問題になってくる人工呼吸器性の肺炎の予防にも有効であることがわかっています。(※3)
このように、口腔の健康を維持・向上することの大切さを知っておくだけでも、生活の質の向上が可能です。ぜひ毎日の食事や会話を楽しみながら簡単にできる口腔ケアを行い、お口の健康維持と予防に努めましょう。

※1 厚生労働省「介護予防マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1_01.pdf

※2 厚生労働省 平成29年(2017)人口動態統計(確定数)
性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/dl/10_h6.pdf

※3 日本歯科医師会「健康長寿社会に寄与する 歯科医療・口腔保健のエビデンス| P82-83 口腔保健と生活習慣病,非感染性疾患 (NCDs,非伝染性疾患) 2)肺炎等呼吸器疾患  -口腔ケアと誤嚥性肺炎予防,人工呼吸器関連肺炎予防-」
https://www.jda.or.jp/dentist/program/pdf/world_concgress_2015_evidence_jp.pdf

執筆者

柴田 育

歯科医師・歯学博士。株式会社SPARKLINKS.代表。

2児の母。
東京医科歯科大学大学院卒業、北海道大学歯学部卒業。東京医科歯科大学矯正外来(非常勤)を経て、フリーランス歯科医師(矯正)として歯科に携わる。